柔道・柔道教育とは?

柔道は1882年嘉納治五郎という一人の日本人によって創られた武道です。

小さなお寺の一角を間借りして始まった柔道は、国境を越え、世界中の人々に愛され尊敬される武道(※)となりました。

※2025年現在 国際柔道連盟(IJF)には207の国と地域が加盟しています。
https://www.ijf.org/countries

国際柔道連盟(IJF)の規約の前文には次のように書かれている。

柔道は、一八八二年に嘉納治五郎により創設された。

武術から起こった教育的方法として、柔道は、一九六四年にはオリンピック公式スポーツになった(国際的な紛争により行われなくなった一九四〇年の東京オリンピックにおいてデモストレーション競技となっていた)。柔道は身体の表現を心がコントロールし、個々人を教育するために体系化されたスポーツである。柔道は競技や闘争を越えて、技の研究、形の鍛練、護身術、身体的準備や精神を研ぎすませるスポーツである。柔道の理論は伝統的な考えに由来しつつも、創設者によってきわめて現代的で進歩的な活動としてデザインされた。

(International Judo Federation 2013:2)

数多くある国際競技連盟のなかで、創設者についてこれだけ書かれている規約は他には存在しない。この規約により、柔道が嘉納治五郎によって創設された教育的方法であることは、柔道を行う者すべてに知られているのであり、柔道がグローバルスタンダードになっていることの証でもある。ローカルな武術であった柔術が、嘉納によりナショナルスタンダードを経て、グローバルスタンダードなったということは、日本のスポーツの歴史上、大きな成果の一つといえる。

「現代スポーツは嘉納治五郎から何を学ぶのか オリンピック・体育・柔道の新たなビジョン(公益財団法人 日本体育協会 監修)第3章
「嘉納治五郎の考えた国民体育」より抜粋 

柔道はただ単に相手を投げたり、抑え込んだりするだけの武道ではなく、その根底には嘉納治五郎の想い,哲学があります。
柔道の“道”は、人が生きる“道”です。

“人の道”とは、「“善”に向かって生きること」ではないでしょうか?

“善”とは何か?
“善”とは「自分以外の他者を優先すること」だと思います。

『志道館学舎』は、柔道を通して、これからを生きる子どもたちに“人が生きる道”“人の道”を教える杉並区の認可外保育園です。
では、柔道とはそもそもどんな武道なのでしょうか?
嘉納治五郎は柔道にどんな思いを込めたのでしょうか?

深遠な柔道を7つの項目にまとめました。
ぜひご一読ください。

【柔道について】

<その一>嘉納治五郎

◎嘉納治五郎の功績

1860年御影村(現在の兵庫県神戸市)に生まれた嘉納治五郎は「柔道」を生み出しただけではなく、教育者として学習院教頭や高等師範学校校長などを務めました。また、「日本体育の父」とも呼ばれ、大日本体育協会設立・アジア初の国際オリンピック委員就任・東京オリンピック招致など、今日の日本スポーツ界の発展は治五郎なくしては語れません。

◎母の教え

そんな治五郎の生き方に大きな影響を与えたのは、母・定子です。定子は幼い治五郎を厳しくしつけ「人のために尽くす」ということを教えました。

定子は治五郎が9歳の時に亡くなってしまいます。

治五郎は晩年母について「母はみんなの為にと言って、他人のことに自分を忘れて尽くしていた。私が人の為に尽くそうという精神になったのはこの母の感化だ」と語っています。

★まとめ→日本のために尽くした嘉納治五郎

<その二>講道館柔道

◎いじめられっ子だった嘉納治五郎

勉強がよくできた治五郎ですが、体が小さかったため、当時通っていた私塾や官立開成学校で、乱暴者からいじめられます。悔しい思いをした治五郎は自分が強くなるために、「天神真楊流柔術」に入門、師匠の死後は「起倒流柔術」で心身を鍛えました。治五郎は、日々鍛練することで、体と精神が強くなっていくことを自覚するようになります。治五郎は、自分が柔術から学んだことを世に伝えるため、技術を体系化し、「柔道」という名前を付けました。これには「術は手段であって、道が目的である」という意味が込められています。東京大学を卒業し学習院講師を務めていた22歳の治五郎は、1882年 道を講じる教育所として「講道館」を設立。こうして『講道館柔道』が誕生しました。現在、『講道館柔道』は「柔道」と称され、世界中の人々から愛される武道となっています。

★まとめ→“術”から“道”へ!

術だけにとどまれば低いが道に至れば尊い

永昌寺(台東区東上野)の一角、十二畳から柔道の歴史が始まった。

永昌寺の境内には「講道館柔道発祥之地」と刻まれた石碑がある。

<その三>体育・勝負・修心

◎柔道の目的は「人間形成」

嘉納治五郎は、「元来柔道は体育であり、武術であり又精神修養の方法であるから、体育として柔道を学んでいる時にも、武術や精神修養のことに絶えず心を配り、又武術として稽古している時にも、体育や精神修養のことを忘れてはならぬ」と記しています。『柔道教本(堀書店1931)』

★まとめ→体育・勝負・修心の三つが相須って柔道を為す 

<その四>礼に始まり 礼に終わる

◎古来より大切にされてきた「礼」

我が国最初の成文憲法である聖徳太子の「憲法十七条」。第一条の「和を以って貴しと為す」から十七条まで、一貫する原理は「和」です。その「憲法十七条」第四条では「礼」について言及しています。ここで言う「礼」とは、上下の秩序を正しくすることであり、上に立つ者が礼を本とし、実行すれば秩序は保たれ、国家が自然と治まる、とあります。このように日本では古来より「礼」「礼儀」「礼節」が大切にされてきました。

◎礼即敬・敬即礼

柔道修行は相手がいないと成り立ちません。互いに競い合う関係性であっても、そこに相手への「敬意」がなければ、柔道の技術は、だたの暴力に成り下がってしまいます。その「敬意」を表わす行為が「礼」です。

また立位から座位へ、座位から立位へうつる動作においても、すぐに行動を起こすためには、体の重心を安定させ、姿勢を正しく保たなくてはなりません。姿勢を正して行動すれば、武道の動作と礼儀作法の動作のその基本が一致します。「礼は即ち備えなり」とか、武道とは「礼に始まり礼に終わる」と言われる所以です。

★まとめ→柔道修行は相手がいないと成り立たない。互いを高め合う相手への敬意をあらわすのが「礼」

<その五>よい人間になることが柔道です

◎技を覚えることだけが柔道ではない

故・福田敬子氏(講道館柔道九段/アメリカ柔道連盟十段)は、若き日の嘉納治五郎に天神真楊流柔術を指導した福田八之助の孫です。福田敬子氏は21歳の時に、嘉納治五郎に柔道を勧められて講道館に入門しました。1966年53歳の時に、北カルフォルニア柔道連盟の誘いで渡米し、2013年に99歳でお亡くなりになるまで、柔道の普及活動に尽力されました。その功績が認められ、2011年8月にはアメリカ柔道連盟で女子柔道家としては史上初となる十段に昇段しています。女子柔道のパイオニアである福田敬子氏は生前「膝車や大外刈が柔道ではありません。よい人間になることが柔道です。」と仰ってます。


★まとめ→膝車や大外刈りが柔道ではありません。よい人間になることが柔道です。

<その六>嘉納治五郎師範遺訓

~嘉納治五郎師範 遺訓~

柔道は心身の力を最も有効に使用する道である
その修行は攻撃防御の練習に由って
身体精神を鍛練修養し 斯道の神髄を体得することである
そうして是に由って 己を完成し 世を補益するが 柔道修行の究竟の目的である

◎柔道とは「和」の武道

「柔道とは何であるか」それに答えたのが、1915(大正4)年に述べられた「嘉納治五郎師範遺訓」です。

古来柔術の技は、暴力と対決するために発生した殺傷性の高いものでした。嘉納治五郎は、これら危険性が高い技・闘争の場に処するためにあった柔術の次元を高め、柔道に志すものは、すべて「和」の武道の実践ができるように、教育理念と修行体系を整えました。柔道の教育理念として「己を完成し 世を補益するが 柔道修行の究竟の目的である」と説いたのです。

柔道とは「和」の「道」であり、柔道修行によって自分を高め、世のため人のために尽くせる人間になること、これこそが柔道修行の目的なのです。

<その七>精力善用 自他共栄

◎柔道の基本理念

嘉納治五郎は、「柔道とは心身の力を最も有効に使用する道」であって、「相助相譲自他共栄の道」である、これを要約して、1922(大正4)年「精力善用 自他共栄」という道標を発表しました。「精力善用 自他共栄」は、現在も柔道の基本理念とされています。「精力善用」とは、「精力最善活用」とも言い、古い柔術の「技」の体験から帰納されたもので、個人の“自己充実の原理”となり、「自他共栄」とは、互いの人格を敬い、心と心の触れ合う稽古を通して体得されたもので、社会の“融和の原理”となります。

◎“善”とは何か

嘉納治五郎は、「善とは何かというに、団体生活の存続発展を助くるものは善で、これを妨ぐるものは悪である」と述べています。「自他共栄」とは、「精力善用」が含み持つ“善行”そのものが目的化されたもので、“善”というのは、自他共栄の裁判を受けてはじめてこれを決定することができる、と説いています。

「精力善用 自他共栄」という思想哲学が社会にもっともっと広まり、私たち一人ひとりが日々の生活の中でその思想哲学に則った言動を心掛けることで、社会はもっともっと平和になることでしょう。

★まとめ

①精力最善活用は自己完成の要訣なり。
②自己完成は他の完成を助くることによって成就す。
③自己完成は人類共栄の基なり。〈講道館文化会 綱領(1922年)〉

【柔道教育について】

『志道館学舎』では、柔道を通した教育「柔道教育」を柱にしています。

「柔道教育」とは、幼少期という人間形成にとって一番大切な時期に、適切に身体を鍛え、徳性を涵養し、智力を練り、それらを社会生活に応用できる人を育むことです。

価値観が多様化し、「自由」や「個性」という言葉が一人歩きし、ともすれば「自分さえよければ、今だけよければそれでよい」と曲解されている現代社会にこそ、善悪の判断基準を持つこと、世のため人のために尽くそうという気持ち、他者を思いやる気持ち、譲り合う気持ちを育む「柔道教育」が必要だと考えています。

余談ですが、芥川龍之介は“自由”についてこんな風に語っています。

自由は山巓(さんてん)の空気に似ている。

どちらも弱い者には堪えることができない。

自由を謳歌できるのは、生き方に芯のある人だけだと思います。

私自身、自由を謳歌できる人でありたいと思いますし、子どもたちも芯を持ち、太い人生を歩んでいって欲しいと願っています。

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